愛しの太ももサンタちゃん
彼は市内五店舗の見回り担当で、週に三回ほど、この店もチェックしにやってくる。
店の雰囲気、スタッフの動き、客の様子や、商品の売れ行きなどなど。細かに観察して本部に報告している。
だがルカは彼の顔を見るなり逃げたくなった。のに、目があってしまう!
「い、池上さん。おはようございます」
「お疲れさん。売り上げも上々のようでなにより。まあ、この地下街で売れなくちゃ問題だけれどな」
いつもニコリともしない怖い顔。
シビアなことしかいわなくて、時たま、ひとこと余計な人だったりする。
「今年も頼むな」
そんな彼が、こんな時だけにっこり笑ってくれ、ルカの肩をたたいた。
こんな笑顔の時は、なにか魂胆があるとき。
そしてルカも『今年も頼む』のひとことで顔色を変える。
「えー、イヤです! まだあれをやるんですか」
「おう。やるぞ。さあ、こっちへこい」
腕も掴まれ、彼にぐいぐいと店舗奥の小さなスタッフルームへと連れ去られる。
厨房からは、チーフとパートさん達が苦笑いを見せながら『ルカちゃん、頑張れ』と声援を……。
「もうー。去年、知り合いが店の前を通って恥ずかしかったんですから。池上さんだって見ていたでしょう」
「俺だって、恥ずかしいんだからな。社長命令だ。やるぞ」
「えー、また池上さんも一緒なんですかー」
強引に腕を引っ張る彼が振り返る。
「悪かったな。俺で」
眉間にしわを寄せて、上からぐっと睨まれる。ただでさえ強面で恐ろしいのに、さらに恐ろしい男の顔にルカは黙り込む。
そんなに怯えてしまったルカに気がついたのか、ふっと彼の顔がゆるむ。
「あ、悪かった。俺もむかついているんだよ、ほんとにもう」
首もとのネクタイをゆるめながら、彼がスタッフルームのドアを開ける。