愛しの太ももサンタちゃん
地下街の小さな店舗、スタッフがひとまず身支度ができる部屋。
そこに今年もどーんと用意されていた。
営業の池上さんだって不機嫌になるそれが。
彼がそれを指さしてルカに問う。
「今年はどうする。去年は俺がサンタ。皆川がトナカイ」
「どっちもイヤです」
きっぱり言い返すと、また彼が眉間にしわを寄せる。
「やるんだ、今年も、やるんだ。着ぐるみの客寄せサンタ&トナカイを。やるんだ、やるんだ!」
思った。彼もすごくイヤなんだなと。
自分に言い聞かせるのに精一杯で、ほかのスタッフの『イヤ』に手間をかけるのも『イヤ』なんだろうなと。
「……こ、今年も、トナカイ、で」
「よし。決まった。夕方の16時からこれを着て店頭にでる」
「はい」
彼がふうっとひといきついて、スタッフルームの小さな椅子に腰をかけた。
とても疲れた顔に変貌した。どの店舗も繁忙期に追われている。そのサポートに数少ない営業が走り回ってると聞かされている。
一時、ものも言わず彼がうなだれていた。
ルカもなにかコーヒーでも一杯と思ったけれど――。
「昼飯も食ってない。店で食べていく。イートスペースに座らせてもらうぞ」
「そんな。ここでゆっくり食べられたらいいのに」
それでも彼はルカの言うことなど聞き入れる様子もなく、再び、背筋を凛とさせて店頭へとでていった。