愛しの太ももサンタちゃん


 地下街の小さな店舗、スタッフがひとまず身支度ができる部屋。
 そこに今年もどーんと用意されていた。

 営業の池上さんだって不機嫌になるそれが。

 彼がそれを指さしてルカに問う。

「今年はどうする。去年は俺がサンタ。皆川がトナカイ」
「どっちもイヤです」

 きっぱり言い返すと、また彼が眉間にしわを寄せる。

「やるんだ、今年も、やるんだ。着ぐるみの客寄せサンタ&トナカイを。やるんだ、やるんだ!」

 思った。彼もすごくイヤなんだなと。
 自分に言い聞かせるのに精一杯で、ほかのスタッフの『イヤ』に手間をかけるのも『イヤ』なんだろうなと。

「……こ、今年も、トナカイ、で」
「よし。決まった。夕方の16時からこれを着て店頭にでる」
「はい」

 彼がふうっとひといきついて、スタッフルームの小さな椅子に腰をかけた。
 とても疲れた顔に変貌した。どの店舗も繁忙期に追われている。そのサポートに数少ない営業が走り回ってると聞かされている。

 一時、ものも言わず彼がうなだれていた。
 ルカもなにかコーヒーでも一杯と思ったけれど――。

「昼飯も食ってない。店で食べていく。イートスペースに座らせてもらうぞ」
「そんな。ここでゆっくり食べられたらいいのに」

 それでも彼はルカの言うことなど聞き入れる様子もなく、再び、背筋を凛とさせて店頭へとでていった。


< 4 / 18 >

この作品をシェア

pagetop