愛しの太ももサンタちゃん
16時になる。
トナカイの時間です。
「さあ、やるぞ」
白髭をつけ、真っ赤なサンタクロースになってしまった彼の空元気。
ルカもついに、ずんぐりむっくりのトナカイの着ぐるみで店頭に出た。
店の入り口に設置したテーブルに、ブッシュドノエルの箱を並べる。
当店特製のブッシュドノエルですー!
今年の限定品です、いらっしゃいませ!
池上先輩と声を張り上げた。
ママ、サンタさんー。トナカイもいるよー。
通りがかりの小さな子供に見つけてもらうと、無条件に手を振ってしまう。
やーん、トナカイの着ぐるみ!
女の人が着ているじゃん~。
可愛い十代の女の子たちに指さされると、今年もどこかに逃げたくなる。
「気にするな」
池上さんがフォローしてくれる。
だけどサンタ姿になった彼を見て、ルカはますます悲しくなる。
「あの駅地下って。この都心でいちばんお洒落なスポットのはずなのに。どーして、こんな子供だましな販促をしなくちゃいけないんですか。池上さんがどんなに髭をつけたって、どーみたって若い男性にしか見えませんから」
毎年毎年! そもそも社長の考えが古くさい!
メロンパンだって定番商品だけれど、一歩間違えれば時代遅れ。
他の商品だってどこか田舎臭い。
それを一新させたのが、この地下街への進出だった。
社長が若手のパン職人に任せるようになったから。
若い営業マンを増やして、彼らのアンテナを頼るようになったから。
「なのに。お洒落なパン屋さんの店先で、着ぐるみなんて……」
一昨年なんてもっとひどかった。
ミニスカのサンタ女の子の格好をさせられた。それがお洒落だと社長は思ったらしい。