ご近所恋愛(笑)
「荷物はこれだけー?家具とかはないの~?」
「えっと、後で届くと思んですけど、確か…3時くらいに」
「後十分くらいだな。じゃあ、今のうちに他の奴らに挨拶でもしとくか」
「他の奴ら?」
まだここには住人がいるようだ。
「じゃあ下に行こうか」
樹さんに手を引かれて、私は下へと下りた。下には食堂みたいな所があって、そこでみんなでご飯を食べるらしい。
「で、今から会いに行くのはここの賄いさんだ」
「賄いさん、ですか。女性なんですか?」
「いや、男だよー」
「そ、うですか…」
まさかとは思うがここには男しかいないとかそういう少女漫画的な展開だろうか。
別にそんなのは望んでいないので、せめて一人でも女性はいて欲しいのだが。
「あの、泉さん」
「どうした?」
「ここに女性の方はいらっしゃるんですか?」
「いや、いねぇ」
(少女漫画的な展開いぃぃ!)
私は思わず肩を落とす。まさか本当にそんな展開だとは。
いや、それでも私みたいな平凡な女が逆ハーとかそういうのはあり得ない。
うん、きっとそうだ。
それに、まだここに住んでいる人がみんなイケメンだとは限らない。
「ここが食堂だ。おーい、誠ぉー」
おそらく賄いさんの名前である名前を呼びながら、ドアを開ける。
中は意外と広かった。
「……誰だ?」
そして、賄いさんはイケメンだった。
藍色の着流しを着ていて、綺麗な黒髪。切れ長な瞳が、私を捉えた。まるで、彫刻みたいに綺麗な人だ。
「この子はねー、ここに新しく住む菫ちゃんっていうんだー」
私の肩に手を乗せ、にこりと笑う樹さん。和風イケメンさんの前に突き出される形となった私は、気まずくて思わず目線を逸らす。
「ど、ドウモ!藤咲 菫と申します!!」
緊張しすぎて声が裏返ってしまった。これで、私の第一印象は変な子で決定だろう。
恐る恐る和風イケメンさんを盗み見ると、相変わらず気難しげな顔でこちらを睨んでいた。