誘いの季節
誘いの季節
それは、とても寒く身も凍るような秋の日。明良(あきら)は自室の寝台の上で寝返りをうった。
「うー、さみぃ…」
昨夜の寒さをそっくりそのまま引き継いだ朝に、心底溜め息を吐く。
「…早く来ねぇかな…」
彼は呟くと、再び寝返りをうった。
明良は生まれつき体が弱く、幼少時からよく体調を崩してはこうして寝込んでいた。
−−トントントン−−
不意にノック音が響き、明良は時計を見る。いつも時間通りにやって来る人物を、明良は心待ちにしているのだ。
「…朝食を…」
「遅い。………待ってたぞ」
両手で盆を持ち、扉を開けるのもやっとな相手に、明良は告げる。
「申し訳御座いません…ちょっと、普段よりも手間取りました…」
相手は片手で器用に扉を閉め、明良の寝る寝台へと歩を進める。
「おはようございます、兄様」
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