気になるあの子はまひろちゃん。
予想だにしていなかった展開に、一瞬反応が遅れた。
「……え?
数学?教えるの?俺が?まひろちゃんに?」
倒置法使いまくりで、情けないきょとんとした顔で聞き返すと、まひろちゃんはうんうん、と力強く頷いた。
…………。
「え、ええええ!
まひろちゃん、本気⁈ やめといたほうがいいよ絶対!
俺なんかが教えたら、解るもんも解らなくなるよ⁈」
「ケンソンなんてしなくていいから!
数学得意なんでしょっ?
お願い!教えてください!!」
再度、両のてのひらを合わせるまひろちゃんに、俺はたじろぐ。
祐一にときどき教えたりはしているけれど、その教える相手が好きな子になると大分違う。
緊張しまくりで言葉がちゃんと紡げるかどうかすら危うい。
……だけど。
まひろちゃんが手を合わせてまで頼んで来てくれているんだ、俺に。
嬉しい。力になりたい。
……だけど。
そんなふうにまどろっこしく俺が悩んでいると。
「お願いおねがい!
涼くんしかいないの、頼める人‼」
なんて。
好きな子に言われたら絶対断れないような、可愛い文句を挟んで来た。