気になるあの子はまひろちゃん。
まひろちゃんに紹介されて、とりあえずその男に軽く会釈する。
すると男も軽く頭を下げて
「日下部まことです。
いつもまひろがお世話になってます」
と微笑んだ。
”いつもまひろがお世話になってます”
この一言で完全に認められた、ふたりの深い関係性。
「……じゃあ。 まひろちゃん、俺帰るね」
まひろちゃんも、日下部まことと名乗った男のほうも見れずに、俺は踵を返して駆け出した。
「えっ、あ、涼くん!」
まひろちゃんの声が後ろからかかった気がしたけど、振り向く気も余裕もなかった。
そのまま逃げるように、__いや、逃げた。
頭のなかに浮かぶふたりの姿を掻き消したくて、走って走って走って。
家についたときは息が切れてなにか考えることができないくらい全速力で、
いつもは電車で通う道を走って帰った。