もうひとつの偽聖夜
とはいえ。
――やってらんね。
赤ちょうちんが俺を誘ってくれているこの状況とは言えど、実際、二日前、勤めていた会社のタコ社長をぶん殴ってクビになり、「もう、帰ってくんじゃないわよ」と、おふくろから勘当宣告をされた俺は、行くあてもない。 おまけに治療費として今月分の給料を差し押さえられ、たただいまの所持金、1580円。
――まさに、崖っぷちじゃねえか。
この見事なまでに不甲斐ない俺は、上杉昌也(うえすぎまさや)。23歳。
高校までは、天から授かったそれなりの容姿と、破天荒ぶりがヤケに受け、女に不自由することもなく、人生を謳歌していたものだ。
しかし、俺の弱点でもある、短気、飽き性、根性なし。
この三重苦はどうも社会には適応せず。
仕事を点々とし、そのストレスをぬぐい去ろうと荒れ狂ううちに、豚箱までが時には生活区域に加わることになり。
あんなに周りにうろついていた女どもは、皆、蜘蛛の子散らすように姿を消した。
オヤジを幼くして病気で失った俺と、女手一つで育ててくれたおふくろを、商店街のおっさん、クソババア連中は、いつも気にかけ、見守ってくれている。
だからこそ、不甲斐ねえ。
そのおふくろを、泣かせることしかやってねえ自分は、今、この場に及んで何一つ弁明すらできるわけがなく。
俺は、しかたねえ、と、幼馴染の「やおちん」のうちに転がり込むことにした。