夏月一会

「後悔しない……?」

凪は最後に聞いた。


「もう、してるよ……」



私達が出逢ってしまったこと。
凪を愛してしまったこと。

凪を、求めてしまったこと……


全てに後悔してる。

でも、もう止まらない。



「そっか…」

凪は小さく呟いた。

そして、私の耳元に唇を寄せた。


「麗海さん…愛してる」




道理とか、倫理とか、そんなこと関係なかった。


ただ、今この瞬間に、凪以上に私を愛してくれている人はいない。

今この瞬間に、私以上に凪を愛している人はいない。

それを肌で感じたい。

それだけで、十分だった。





「麗海さん……」

凪は、何度も私の名前を呼んだ。


「凪……」

私も、何度もそれに答え、凪の名前を呼んだ。




凪は、色々な表情を見せた。


まるで獣のように荒々しく私に触れたかと思えば、急に泣き出してしまいそうな子供みたいに私にすがってくる。

溶けてしまいそうなほど熱く抱き締めてきたかと思えば、急に現実に戻ったかのように冷静に私を見下ろした。



それは、きっと、凪の不安定な心だった。

私は、初めて凪の心を覗いてしまったような気がした。


.
< 100 / 121 >

この作品をシェア

pagetop