夏月一会
凪の腕の中で、私は、ずっと凪に聞きたかったことを聞いた。
「ねえ、凪……」
「何?麗海さん……」
今なら、答えてくれるんじゃないか。
そんな気がした。
「凪は、伯父様のこと、どう思ってたの?」
凪の表情が一瞬強張った。
でも、それを誤魔化すように、凪は微笑んだ。
「どうしてそんなこと聞くの?」
「誤魔化そうとしないで答えて。私…凪からは何も聞いてないよ……」
私は凪の胸に額を押し付けた。
そうやって、また涙が出てしまいそうなのを堪えた。
「お願い……話して。凪が思ってること、全部……」
やがて、凪はゆっくりと口を開いた。
「父は、僕のことを、息子として扱ってくれた。ごく普通の家よりは、やっぱり冷めていたかもしれないけど……それはちゃんと分かってた。……でも」
凪の腕に、ぐっと力が入った。
「でも、怖いんだ……父のことが……昔から、どうしても、怖かった」
泣きそうな、そんな声で、凪は初めて、心の中を打ちあけた。
.