夏月一会

「僕は、父と血が繋がってないから……本当の息子じゃないから……だから、いつも父に僕のことがどう映っているのか、気になって怖かった……。お母さんがいる間はよかったけど……でも、いなくなったら、僕はどうしていいか分からなくなったんだ」


凪の震える身体を、私は抱き締め返した。
私にはそれしかできなくて、そうやって、ただ凪の心を聞いていた。


「お母さんは、いつも言ってくれてたんだ。父は僕のことをちゃんと愛してくれてるって……本当は優しいのに、不器用でなかなかそれを表に出すことが苦手なんだって……」



『凪……お父さんはあなたのことを嫌ったりなんてしないわ。優しい人だから、私とあなたはここにいることができるの。それにね、凪――』



「僕の名前は、父がつけてくれたんだって。自分達みたいに、もう風に荒らされることがないように、いつも凪いでいて、穏やかな人間に育って欲しいって……そういう意味だって」


「凪……」

私はただ、その名を呼んだ。


愛しい人の名前には、そんな意味が込められていた。

とっても優しい、そんな意味が……


凪は海に似ている。

そう思ったのは、だからだったんだ。


きっと凪は、その意味の通りに生きようとしていたんだね。


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