夏月一会

棺の中の凪は、とても細くなっていた。

柳さんの話によると、凪は東京の病院に入れられてから、日に日に容態が悪化して、もういつどうなっても状態になってしまったらしい。

でも、最期は、安らかに眠るように、静かに逝ったという。


あの時のように発作で苦しんだわけではないみたいだったから、よかったと、私は思った。


人が何よりも辛いのは、死ぬことではなくて、苦しむことだと痛いほどに感じたから……

それが、肉体であるにしても、心であるにしても……




そして、凪はあっという間に煙と骨と灰になった。

火葬場で立ち上る煙を見て、私は安心していた。


凪が、やっと開放されたから……

もう、苦しむ必要なんて、ないから……




私は凪が死んだと聞いた時も、凪の遺体を見た時も、泣かなかった。
涙一つ溢さなかった。

悲しくないわけなんてない。

でも、泣くことはできなかった。



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