夏月一会


クローゼットの奥から、大きな紙袋が出てきた。


中身は分かってる。


凪が私に残してくれた、あの赤い表紙のスケッチブックだ。



私は、久々にそれを出して、手に取った。


赤色の表紙の色は、少し色褪せてしまっていた。

あれから随分と時が経っていることを、物語っているようだ。そして、そのスケッチブックは紐で蝶結びをされているままで、開かれることはなかった。


きっと、それは開かないまま、これからも時を刻んでいくだろう。



今の私には、見る必要のないものだから……



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