夏月一会
「ねぇ、凪君。凪君のお母さんは、どういう人だった?私も、会ったことはなかったから…」
自分のことは話そうとしない凪に、聞いてもいいのか悩んだけど、私は気になって、はぐらかされるのを覚悟して聞いた。
「僕のお母さんも、優しい人だったよ」
予想を外して、凪は普通に答えてくれた。
「僕がいうのもなんだけど、すごく綺麗な人でね、僕のこと、すごく愛してくれてたんだ」
自分のことを話す時には珍しく、穏やかな口調で、優しく微笑みながら、凪は言った。
凪のお母さんが亡くなったのは、七年前。
凪は九、十歳だ。
まだ小学生で母親を亡くすというのは、どれほどの衝撃だったのだろうか…
「お母さんは、色々と教えてくれたよ。父との馴れ初めとか。昔から相思相愛だったらしいよ」
「そうなの?」
私は目を丸くして、思いのほか驚いてしまった。
私の中の伯父は、いつも難しい顔をしていて、厳しくて、いわゆる堅物的なイメージだった。
そういう人に相思相愛の相手がいるなんて、伯父に対して失礼かもしれないけど、想像できなかった。
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