夏月一会



洗濯物を干し終えて、ふと凪の方を見た。


凪は相変わらず鉛筆を動かし、絵を描いている。

私は、そのそばに寄った。


凪の座っている椅子の横に、赤い表紙のスケッチブックが置いてあった。


「そのスケッチブック。もう使ってるの?」

私は凪に尋ねた。


「ああ、うん。そうだよ」



この赤い表紙のスケッチブックは、私が凪に頼まれて買ってきたものだ。


まだ使っているもので、残っているページがたくさんあるのに、もう一冊余分にいるのだと言われて買った、赤のスケッチブック……


今まで凪が使っていたスケッチブックは、全部表紙が紺とか黒とか深緑とか、シンプルなものだった。


だから似たようなものを買おうとしていたのに、いつも行ってるスーパーの文房具売り場には、それは置いていなかった。

あったのは、赤い表紙で、表紙と裏表紙に紐がついていて、それを結んで開かないようにできる、このスケッチブックだけだった。


しょうがなくそれを買って、凪に言うと、凪は微笑みながら、


「丁度よかったよ」

とだけ言った。


その意味は分からなかったけど、とりあえず何でもよかったってことなんだろう。


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