夏月一会
「見てもいい?」
私がスケッチブックに手を伸ばすと、凪がさっと取り上げた。
「だめ。こっちならいいよ」
そう言って、凪はイーゼルに立て掛けていた方のスケッチブックを私に差し出した。
「何で?そっちは?」
「まだ描ききれてないんだ。描き終わったらちゃんと見せるから」
凪は、スケッチブックを椅子の反対側に置いた。
いつもなら、描いてる途中でも構わず見せてくれるのに、見せてくれない。
どうしてなのか、よく分からなかった。
でも、見せてくれるのなら、その時の楽しみにとっておこう。
「そうだ。麗海さん」
凪は思い出したように言って、私に差し出したスケッチブックのページをめくっていく。
そして、あるページを開いて私に見せた。
そこには、人物画が描かれていた。
見覚えがあるような、ないような…
そんな女性の絵だった。
「これって?」
私が尋ねると、凪は優しく微笑んだ。
「僕の、お母さん」
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