夏月一会
「えっ…」
私はもう一度その絵を見た。
そうだ。
見覚えがあるように感じたのは、凪のお母さんのお通夜に行った時に遺影を見たんだ。
実際に会ったことはなかったから、かなり曖昧な記憶になってた。
「会ったことないって言ってたから。ここには写真ないし」
「え!?何も見ずにかいたの?
私は目を丸くした。
すごく上手く描かれている。
鉛筆だけで、白黒ではあるけど、それこそ写真と同じようだ。
「うん。見なくても描けるよ。すごく心に残ってるから」
その時の凪は、本当に優しい声で、すごく切なくなるほど、優しい顔をしていた。
凪にとってのお母さんは、大きな存在だったに違いない。
それは、凪のその顔で、この絵を見て、分かった。
七年前に亡くなったお母さんの絵を、写真を見なくても描けるほど、はっきりと覚えているのだから。
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