夏月一会
伯父は私に頼みがあると言った。



それは、夏の間だけで構わないから、東京の外れにある別宅に住んでいる息子・凪の世話をして欲しいということだった。



どうして私をご指名だったのか、全く分からない。


伯父の家は大きくて、家政婦とか、家の手伝いをして凪の世話をしている人なんてたくさんいるはずだ。


わざわざ私である必要なんて、ないんじゃないだろうか。


そう思って聞いてみると、夏の間、住み込みで都合のつく人間がいないのだという。

それで私が思い当たって頼んでいるのだと。


それなら尚更不思議に思った。


私は、疎遠な伯父が何かあった時に思いつくような立場にあっただろうか。

私の覚えている限りで、それはない。


凪とだって、従姉弟ではあるけど、会ったことなんてなかったし、名前なんてその時初めて知ったような、赤の他人同然の関係だ。



だから、頼むのは、私じゃなくても同じなのに……




でも、伯父に必要経費は勿論、バイト代も出すと言われた。
しかもそれは、そんじょそこらのバイトの時給よりもよっぽどよかった。

丁度バイトを探していた私は、住み込みで給料のいいバイトが見つかったと思って、引き受けることにしたのだ。



そして、今に至る。


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