夏月一会
「何?」

少しうろたえながら、私は聞いた。


「麗海さんて、髪長いよね」

何をいうのかと思ったらそんなことで、私は一瞬と惑った。


「ああ、うん。暫く切ってないから……」


私の髪は、三ヶ月前に少し梳いてから伸ばしたままで、腰の近くまで長さがあった。

いつも掃除とか洗濯する時は邪魔だから結んだり、上げたりしてるけど、今日は何もせずに下ろしている。



「綺麗だね…」


「え……?」


凪は私の髪に触れ、少し乱れた髪をかきあげた。


「風になびいて、すごく綺麗だ」


凪の手が、私の髪から頬に触れる。



じっと見つめられ、私は束の間その目を逸らすことができず、凪の目を見つめ返した。


凪の瞳は、夜を思わせるような漆黒で、澄んでいた。


その瞳には、私が映っている。



「あ…私……」

急に恥ずかしくなって、私は凪から顔を背けて少し身を引いた。


「喉、渇いちゃった。ジュース取ってくるね」

私がその場を逃げようと、立ち上がろうとすると、凪がそれを制した。


「僕が行ってくるよ。」

凪は微笑みを浮かべながら立ち上がり、スケッチブックを置いて車へ歩いていった。


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