夏月一会

「じゃあ、この海は麗海さんだね」

私が思っていることとは違うことを、凪が言った。


「こんなに広いのに、全てが綺麗に輝いてる。麗海さんと同じだ」

凪はじっと海を見据えている。


「え……どこが?」

意味が分からず私が尋ねると、凪はクスッと笑って私の方を見た。


男の人の、目だった。


「綺麗に、輝いてるってところ。麗海さんは、気付いてない?」




まるで凪の目に射止められたかのように、私はまばたきすら出来ず、動けなかった。


凪はそれを知っているのか、知らないのか、私の髪を指で掬い取って指を滑らせた。


「僕たちは、同じ海で繋がってる」

そう言って、私の髪に、キスをした。


「…な…凪く」


「『凪』」

髪から唇を離さず、私が呼ぼうとするのを遮って、凪が言う。


「で、いいよ」


凪の指から、私の髪がすべり落ちる。


そして、凪は優しく微笑んだ。

この時の凪は、少年とも、男性とも言えないような、凪そのものの表情だった。



それを見たとき、私の胸の奥が、焦げるように熱くなるのを感じた。


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