夏月一会
「麗海さん。そろそろ帰ろうか。遅くなったら道が混むかもしれないし」
凪はスケッチブックを持って立ち上がる。
「うん……」
頷いたものの、私は動けないでいた。
凪は車に向かって歩いていく。
なのに、私は、またしても、足に力が入らなくて、なかなか立ち上がれなかった。
本当に、どうしたんだろう。
この気持ちは、何なのか、分からない。
身も心も溶けてしまいそうな、そんな感じがする。
こんな気持ちは、初めてだった。
「麗海さん」
凪が私を呼んだ。
「あ……うん」
私はやっと立ち上がった。
凪は、私に向かって、微笑んでくれている。
それを見ると、私もつられて顔が緩んだ。
次の瞬間、一体何が起きたのか、私には分からなかった。
.