夏月一会
第三章
真実を知る時
あの後のことはうろ覚えだ。
とりあえず、あの状況で救急車を呼ぶということに頭が回ってよかった。
パニックになって、何も出来ない状態にならなかったことだけは、唯一の救いだった。
勿論、実際に何かの救いになったわけではない。
救急車を呼んでからも、救急車が来てからも、私は、ただ混乱していた。
あの海から一番近くの病院に、凪は運ばれた。
そしてすぐに処置室に運ばれ、治療を受けてる。
私は、じっと廊下の長椅子に座って待っていた。
頭の中は真っ白で、何も考えることができなかった。
救急車の中で、凪のことを診て処置をしていた救急隊員が言った。
凪のこの症状は、心臓発作のようだと……
何か持病があるのかどうかを聞かれ、私は何も答えることができなかった。
それで、今更になって気付いた。
私は、凪のことを、何も知らないに等しかったんだ。
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