夏月一会
しん、と静かな空間に、誰かが廊下を歩く音が聞こえて、私は我に返った。
顔を上げると、そこには伯父が立っていた。
さっき――凪が処置室に運ばれてすぐに、看護師に家族に連絡をしてくれと言われ、電話をしたのだった。
そして、伯父の後ろには、五十代ぐらいの男性――確か、伯父の秘書をしている、柳という人だ――が控えていた。
私は何かを言おうとして立ち上がったけど、結局何の言葉も発せられず、固まってしまった。
そんな私に対し、先に口を開いたのは、伯父の方だった。
「息子が倒れたそうだな」
「は……はい」
私は頷くだけで精一杯だった。
伯父は落ち着いている。
離れて暮らしていた息子が倒れたというのに、むしろ異常なほどだった。
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