夏月一会
「あの……」
私が話しかけようとすると同時に、処置室の扉が開いた。
私はすぐに反応してそっちを向いた。
看護師がストレッチャーを押して出てくる。
凪はその上で静かに寝かせられていた。
「凪……」
私は小さく呟いていた。
すぐに近くに行きたかったのに、どうしてか足が動かない。
凪はそのまま運ばれて行ってしまった。
その後に、医師が出てきた。
「松本凪さんのご家族の方は……」
医師が私達に対して言った。
「私ですが」
伯父が答える。
その態度は、まるで感情を忘れてしまったかのように冷淡なものだった。
「処置の方は一先ず終えました。今は落ち着いています」
そこまで言うと、医師はより一層深刻な表情になる。
「それから……少しお話があるので、あちらへお願いできますか?」
ドクリと、心臓が波打った。
嫌な予感がした。
こんな言い方をするということは、実際、悪いことに違いない。
「息子の身体のことでしたら、分かっています」
「え……」
声をあげたのは、医師の方だった。
伯父の言葉に面食らったようだった。
しかし、それ以上に、私は驚きで硬直していた。
「東京の病院に主治医がいるので、そっちの方に移すつもりです」
「…そうですか。…では、手続きの方を…」
「柳」
「はい」
伯父に目で合図され、柳さんが動き、医師についていった。
私の分からないところで、話が進んでいる。
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