夏月一会
「あの…凪は一体…凪はどうしたんですか」
私は、声を絞り出して伯父に聞いた。
聞いておきながら、聞きたくないと思っていた。
恐い……
凪が教えてくれなかったことに、凪だけの領域に、足を踏み入れてしまうことが……
でも、明らかに、今だった。
私は、踏み入れなければならない時を、迎えてしまっていた。
伯父は、ゆっくりと口を開いた。
「あれは、生まれた時から心臓に疾患があった。そのせいで、今回みたいに発作がおきることがある。暫くは落ち着いていたが……」
(僕、病弱だから…)
いつかの凪の言葉を思い出した。
あれは、嘘じゃなかったの…?
嘘なんでしょ……?
「医者にはもう成人するまでもたないだろうといわれている」
嘘……
「発作がくれば、その分それも縮まる。今回のは、ひどかったようなら尚更だ」
嘘……
「あいつはもう長くない」
伯父の声が、いやに響いて聞こえた。
嘘……
嘘でしょ?凪……
また私のことをからかおうとしてるんでしょ……?
そう思いたかった。
でも、いくら考えても分かることは一つだけだった。
私が凪のことをほとんど知らなくても、凪はそんなたちの悪い嘘をつく人じゃないという、その事実だけ……
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