夏月一会

何を言われたのか、一瞬分からなかった。


「もう二度と、あいつと会わずに……今まであったことも全部忘れるんだ。それが君のためだ」

念を押すように、言葉を言い換えて、伯父は言った。



凪に、関わるな……?

凪に、会うな……?


忘れろ……?

今まであったこと、全部……

凪のことを……全部……?




「嫌……です」

下を向いたまま、私は言っていた。


「そんな……あなたに指図されて決めることじゃ、ありません」



そもそも、忘れろと言われて忘れられるようなものじゃない。

凪とのことは、そんな簡単なものじゃない。


たとえ、凪の命がもう短いものなのだとしても、それなら私は、その短い時間を、凪と過ごしたい。


凪の側にいたい……




「それは許されない」

伯父の冷たい言葉に、私は顔を上げた。

今度は、伯父の方が私から視線をそらしていた。


流石に違和感を覚えた。


どうして、今まで何に関しても無関心を示していたこの人が、私と凪の関係にここまで干渉してくるのか……


「何なんですか……一体……あなたには関係ないことでしょう!?何が許されないんですか!どうして許されないんですか!」

病院内ということを忘れていた私の声は、静かな廊下に響いた。



「君とあれ……凪は、何かが起きてしまったら困る間柄だ。だから、許されない」


「だから何がですか!」


何故か、伯父のいうことは全て、歯切れが悪い。
これだと、全く埒があかない。

私は苛立ちを隠しきれずに叫んでいた。



その時、伯父の目が私へ向いた。

私はその視線に射竦められ、身体が強張ってしまった。

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