夏月一会

「お前は……私の顔に…この家の名に泥を塗る気か!」


先代の罵声に、浩司は何も言い返せなかった。いや、言い返さなかった。


「堕ろせ!金ならいくらでも出してやる!その女に堕ろさせてすぐに別れろ!いいな!?」

先代は高圧的にそう言い、従わせようとした。
しかし、


「……嫌です」

浩司から発せられたのは、そんな言葉だった。
それは、小さくて、怯えたような声だったけれど、しっかりと意思を持っていた。


「何だと…?」

予想外の反応に、先代は一瞬面食らった表情になった。

浩司は、今まで先代に…いや、誰に対しても、反抗的な態度も発言もとったことはない。
そんな浩司の、初めての拒否だった。


「僕は……彼女のことを真剣に愛してるんです。だから、子供も産んで、一緒に育てようと思ってます。…だから」

浩司は、その場に正座をして床に手をつき、頭を下げた。


「お願いします。彼女との結婚を認めて下さい」



しかし、それは認められるはずはなかった。


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