夏月一会


「義兄さん……」

浩司の方も、驚いた様子だった。
慶一の姿を見ると、ソファーから立ち上がった。


「浩司……お前、どうしてここに……」

慶一は思わずそう言ったが、浩司の方も事情が分からないらしく、何も言わなかった。


「慶一さん……」

傍らの遥がそっと声をかけた。
遥の方が一番何が起きているのかが分からない。はっとそれに気付いた。


「遥…これは……私の……義弟の浩司だ」

慶一は、先代も居る手前、「おとうと」というのにためらったらしく「ぎてい」と発音して遠まわしに誤魔化して遥に説明した。


「そう……ですか。初めまして。慶一の妻の遥です」

事情だけは聞いていた遥は、了承し、冷静にそう言って頭を下げた。

それにあわせて浩司も頭を下げた。


遥と浩司は、この時が初対面だった。

慶一の結婚のことについては、マスコミに取り上げられていたことで知っていたが、直接言われたわけではなく、結婚式なども、呼ばれることなどなかったのだ。


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