夏月一会

そこにいた誰もが言葉を失った。



「何を言ってるんですか……」

呆然とした表情で、浩司が呟いた。


「そうです。お義父様……そんな冗談やめてください」

遥も真剣な表情で口を出した。


「冗談で言うと思っているのか?」

しかし先代は、表情を変えることなく言い放った。


「そ…そこまでする必要はありますか!?遥さんには義兄さんがいて……僕にも妻がいるんです!そんなことはできません!」

浩司は必死になってそう言った。

すると先代はそれに対しては特に反応を見せず、冷たい目で浩司を見返した。

「…ふん。私とてお前になんぞ頼みたくて頼んでいるわけではない。だが、慶一が無理なのだからしょうがないだろう」

先代は慶一の方に視線をやった。
慶一は、何も言葉を発することができなかった。


先代は、まだ血縁に拘っていた。
いや、初めは妥協していたが、事情が変わったと言わんばかりに、浩司を利用しようとしている。


「遥」

唐突に先代が名を呼び、遥の身体がピクリと動いた。


「はい……」

この状況で、極度の緊張のためか、遥の顔は、強張っている。


「慶一の……松本家の長男の妻として、役割は分かっているな?」


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