夏月一会


「私……お義父様の言う通りにします」

遥は自分の決意を慶一に告げた。


「遥…何を言って……」

慶一は驚きを隠せない。

しかし、遥の決心は変わらなかった。


「私が子供を産めば、全ては丸く収まるんです。だから……」

遥の声は震えていた。
まるで自分の決めたことに、怯えていたようだった。


「遥……そんな…お前だけの責任ではないんだ。お前が無理をすることじゃ」


「でも」

慶一の説得を遮って、遥は言葉を紡ぐ。


「でも、私は、あなたの子供が欲しいんです」


遥の目には涙が溜まり、頬を伝っていった。


「私が子供を産めば、その子はあなたと私の子供として育てられます。だから……私はその子を、あなたとの子供を、産みたい……愛したいんです」


慶一は何も言えなかった。

ここまでして、遥を悩ませている原因は、自分にある。
遥を辛い目に遭わせているのは、誰よりも自分だ。

そう思うと、慶一は、遥の懇願に対して、何も言えなかった。




そうして、遥が、浩司との子供を妊娠し、男児を産んだ。


それが、凪だった。

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