夏月一会
私が、凪が伯父の話をする時のことを思い出した。

いつも『父』と言って、テレビで出るだけで、そこにはいないのに避けたりして……普通の親子よりはどこかぎこちなかった。


それは、こういう事実があって、二人ともそれを知っていたからなんだろうか……


「ただでさえ先生もお忙しい方ですから、なかなか親子としての交流を持つことができなかったこともあったのですが……それ以上に、凪さんが、どこか先生を敬遠していたように、私は思います。こちらの家に住みたいと仰ったのも、凪さんからでした。そして、あなたに会いたいといったことも……それは、凪さんの、数少ない先生への甘えだったのではないかと思います」





もう、何がなんだか分からなくなってしまった。







送ってもらった車から下りたあと、私は家の中に入った。


急に、心にも身体にも、鉛のように重い疲労感を感じた。


自分の髪から潮の匂いがした。

そういえば、今日は海に行ったんだった。


私はほとんど無意識に風呂場へ行き、服を脱いでシャワーを浴びた。



潮の匂いがなくなっても、今日あったことは何一つなくならなかった。






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