夏月一会
シャワーを浴びた私は、部屋へといこうと二階に上がった。
階段を上がってすぐ目がいくのが凪の部屋のドアだ。
私は無意識に、それでも何かに引き寄せられるように、凪の部屋に向かった。
ドアを開けると、誰もいない、暗くて静かな部屋が広がる。
本当に僅かな光が窓から入っている。
私は電気も点けず、窓辺に寄った。
今夜は満月だった。
まん丸の月が大きく輝いて、夜空は明るく見えた。そして地上は逆に、暗かった。
イルミネーションや街灯で夜でも明るく賑やかな東京と違って、ここにはイルミネーションは勿論、街灯だって殆どなかった。
昼間は見晴らしがいいのに、今は真っ暗で何も見えない。
「夜はこうなるんだ…」
私は一人で呟いた。
静か過ぎて、暗闇に包まれたこの空間は、落ち着かない。
それは、私が東京育ちだからとか、そんな理由じゃなかった。
誰もいない……
凪がいないからだ。
ひどいくらいに恐くて、寂しくて、空しくて、哀しい……
ここからの夜の景色は、今の私と一緒だ。
「………っ」
涙が溢れてきて、月明かりが霞んだ。
「ふっ……うっ………」
私は、立っていられなくなって、膝をついた。
「わあぁぁぁ―――――――……」
私はこの静かな空間に響くほど、大声を出して泣いた。
痛かった。
突きつけられた真実で、心が痛かった。
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