夏月一会
「ずっと、会いたかったんだ」
溢すように、凪は呟いた。
「麗海さんは、覚えてる?僕達は、全くの初対面じゃないんだよ」
「え……?」
凪の予想もしていなかった発言に、私はただ驚いた。
「僕のお母さんの通夜に、来てたでしょ?麗海さんのお母さんと一緒に…」
そう言われて、私は考えた。
確かに伯母の通夜には行った。
でも、あの時は、母と焼香だけしてすぐに帰ったから、よく覚えていない。
ましてや、当時の凪ほどの小さな子供なんて……
「……覚えてるわけないよね」
凪はクスリと笑った。
それはとても、悲しそうに……
「ほんの一瞬だったけど、目が合ったんだよ。多分、麗海さんは、無意識だったろうけど……でも僕は、はっきり覚えてる」
凪の手が、優しく私の頬を撫でた。
「あの時から、僕は麗海さんのことが気になっていったんだ。あの一度きりだったけど、今までずっと……。だから、最後に会いたかった」
凪は、私から視線を外し、頭を俯けた。
「僕は、最低だよね。僕に会ったら、麗海さんが少なからず辛い思いをすることになるのを分かってて、僕の気持ちを優先させたんだから……」
寂しく、苦笑する声が聞こえた。
「これでも、はじめはできるだけ関わらないようにって思ってたんだけどな……麗海さんに一目会うだけ十分だって、思ってたから……」
その言葉に、初めて凪に会った時のことを思い出した。
『自分勝手な傍若無人』
それが第一印象だった。
でもそれは、何も知らない私に対して、凪は全部を知っていて、一人で抱え込んでいてくれたということだった。
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