婚カチュ。
3◇たとえば完全無欠の弁護士先生

1  ◇ ◇ ◇

 
昇華できなかった恋心は、さっさと忘れるに限る。
 
そう思っていても、実際に彼を目の前にすると、とたんに心臓が騒ぎ出す。
広瀬さんへの想いを自覚したせいで、かえって気持ちが突っ走ろうとしているみたいだった。頭ではいけないと分かっているのに、心がいうことをきかない。


「行きましょうか」
 

年齢のわりに落ち着いた物言いと、女のひとみたいにきれいな肌にメガネとほくろ。
広瀬さんを構成する要素に、いちいち胸を打たれる。


「二ノ宮さん、いいですか?」
 

顔を覗きこまれ、わたしは小さく悲鳴を上げた。


「どうしたんですか、ぼうっとされて。お相手の方がすでにお部屋で待っているんですが、準備はいいですか?」

「ええ、はい。大丈夫です」
 

あわてて返事をすると、広瀬さんは不審そうにわたしを見下ろし、前を歩き出した。


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