婚カチュ。
高級レストランの個室を彷彿とさせる部屋は、わたしがはじめてお見合い相手と顔を合わせた場所と同じだった。
落ち着いた調度品と壁に取り付けられた柔らかな照明が、部屋の中を優雅に照らし出す。
広いテーブルの向こうに、その人は悠然と座っていた。
仕事ができる大人の男性特有の、余裕のある表情を浮かべている。しかし自信に満ち溢れているというわけではなく、上品で優しい空気を漂わせていた。
はじめてお見合い合コンで見たときに感じたものと寸分たがわぬ印象だ。
「戸田さん、お待たせしました。二ノ宮さん、こちらへどうぞ」
広瀬さんがテーブルの中央に立ち、わたしに椅子を勧める。
「こちら、戸田勇司(とだ ゆうじ)さんです。こちらは二ノ宮紫衣さんです」
アドバイザーの声に合わせてお互いに小さく会釈をした。
「僕は席を外しますので、あとはご自由にお話ください。時間内でしたら外出されても構いません。それでは失礼します」
そう言って、広瀬さんはドアの前で一礼し、部屋から出て行った。