婚カチュ。


取り残された2人は独特の緊張感に包まれる、と思っていたのに、戸田さんはいきなり相好を崩した。


「良かった。安心しました、来てくださって」

「え? ええ」

「おきれいな方だから、すでにお相手が見つかっているんじゃないかと思っていました」

「は、はあ」
 

意表を衝かれ曖昧に返事をする。
戸田さんは目じりに優しいしわを刻み、なめらかにしゃべりはじめた。


「先にお話しておきたいと思います。私は現在、都内の法律事務所でイソ弁……勤務弁護士として働いているんですが、来年独立して地元の青森に帰ろうと思っています」
 

突然の話にあっけにとられる。
脳があわただしく回転し、わたしは彼のいわんとすることを察した。


「ああ、だから結婚相手を探しているんですね」
 

わたしの言葉に、戸田さんがにこりと微笑む。

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