婚カチュ。


「わたしは、あなたが思っているような女ではないですよ」

「いいえ。その一見醒めたようなところも私の好みだ。落ち着いていて、安心できます」
 

戸田さんは急に真面目な顔になった。


「一度、外で会ってくれませんか。あなたといろいろ話がしたい。ついでに私のことも知ってください」
 

ほぼ初対面にもかかわらず強引だ。すこし笑いそうになった。

たぶんこの人は自分の武器を十分に理解していて、火力を調整しながら相手をうまく追い込むことができるのだろう。
そういう面で、希和子となんとなく似ている。


「戸田さん、これまでストーカー被害に遭ったことはないですか」
 

わたしの脈絡のない質問に、彼は驚いたように眉を上げた。


「よくわかりましたね。もっとも、こんな仕事をしていると依頼人や紛争相手から恨みを買うのは日常茶飯事ですが」
 

想像以上の答えが返ってきて、私は絶句する。

< 105 / 260 >

この作品をシェア

pagetop