婚カチュ。
「因果な商売です。しかし青森に行けば仕事内容はがらりと変わるはずですから、そういう心配もなくなるでしょう。まあ、そのあたりの話はまた後日するとして、少しは私に興味を持っていただけましたか」
見つめられ、わたしはちいさくうなずいた。
「ほんのすこしだけ。あなたはわたしの知り合いに似ています」
彼は嬉しそうに表情を和らげた。
「それはよかった。デートの日取りはコーディネーターを介して決めましょう」
「わかりました」
答えると、満足したように微笑んで戸田さんは「彼を呼んできます」と席を立った。
話のまとめかたに無駄がない。
まるで何かの商談のようだな、と思いながらドアに向かう背中を見つめた。
落ち着いた色合いのスーツには清潔感が漂い、革靴も光沢を放っている。強引なところもあるけれど、瞳は誠実だった。
黒々とした後頭部にも怪しい点はない。
問題なく、及第点だ。
わたしは息をついた。
新しい一歩を踏み出すには、ちょうどいい機会かもしれない。