婚カチュ。
どこかの若手実業家の会社設立十周年記念パーティーに行こうという話を持ってきたのは希和子のほうだった。
知り合いの知り合いが招待状を持っていたらしく、希和子にもお声がかかったのだという。
あまり乗り気ではなかったわたしを「こんな経験はめったにできない」と強引に説き伏せて、希和子はわたしをこの会場まで引っ張ってきた。
確かに、青年実業家というものにはテレビや雑誌などでしかお目にかかったことがない。
しかし「お祭りみたいなもんだし」という希和子の言葉を鵜呑みにしたわたしはやっぱり愚かだった。
華やいだ世界に縁遠いわたしからすれば、こんなパーティー会場は居心地悪いことこの上ない。
ここにいる人間は男性も女性もみな、何かしら事業を起こしている起業家なのだ。
さっきから周囲では名刺交換が行われ、お互いの事業や景気状況について話し合われ、専門的な言葉が飛び交っている。
話しかけられてもついていけず、希和子のように愛想笑いで相手の感情を和らげることもできない。