婚カチュ。
きっとコンパニオンとでも間違えたのだろう何人かに「電話をください」などと名刺を渡されてナンパまがいのお誘いを受けただけでどっと疲れが押し寄せた。
希和子はというと、今日は薬指の証を置いてきたらしく、声をかけてきた男性たちに惜しみなく笑顔を振りまいていた。
もちろん妙な関係になることを望んでいるのではなく、その場限りの会話を楽しんでいるのだ。
付き合わされるこちらとしてはたまらない。
希和子と一緒にいると話しかけられる確率が上がってしまう。
2人の男性に話しかけられ、当たり障りのない話をして名刺を受け取った。
飲食関係の会社社長とテレビ局の番組ディレクター。
それぞれの肩書きが入った名刺をパーディーバッグに放り込む。小さなバッグからはそろそろ名刺が溢れそうだ。
心底帰りたいと思ったそのとき、肩を叩かれた。
またナンパか、とうんざりしながら振り返ると、思いがけない顔が目に入った。
「二ノ宮さん、どうしてここに?」
内側にベストを合わせた3ピーススーツを着込んだ美男子が、驚いた顔でわたしを見下ろしている。