婚カチュ。
「あ、ごめん」
あわててからだを引く。
ついクセが出てしまった。わが家ではぼうっとした弟がよく食べこぼしをしていたのだ。
「も、いいですから、ありがとうございます」
そう言って、松坂は目を逸らした。なんとなく顔が赤いように見えるけれど、照明が暗くてはっきりとはわからない。
ニットとデニムは暗めの色が幸いしてビールのシミが目立たなそうだ。
松坂はソファの上でひざを抱えた。
ご丁寧に靴を脱ぎ、細長いからだを丸めてアルマジロのようにコンパクトになる。なんだかちょっとかわいい。
「なんでちいさくなってんの」
「いえ……別に」
彼はすこし不貞腐れたような表情でわたしを見つめる。
「ていうか俺、もう2年も前に彼女と別れたんですけど」
「あ、そうなんだ」
何年か前、最後に参加したOB会で松坂に彼女がいることを知っただけで、その後の話は聞いていない。