婚カチュ。


「じゃあもう――」


2年も彼女がいないの、と訊こうとして口をつぐんだ。

その質問は諸刃の剣だ。下手に振るうと自分のほうまで怪我をする。
わたしはもう4年も彼氏がいないのだ。
 
そこまで考えて、戸田さんの顔が思い出された。
東京タワーを見て泣いていた、おかしな弁護士先生。そうだった。わたしは彼と正式に付き合うことになるのだ。


「じゃあもう、なんですか?」
 

途中だった質問を聞き返され、わたしはあわてて話題を変える。


「あ、ううん、そういえば松坂、前にわたしにお願いがあるって言ってなかったっけ?」
 

会社のラウンジで松坂におごってもらった抹茶ラテを啜った日が、もうずいぶんむかしことのように思えた。


「ああ、あれはまだいいです。MVPも取りそこなったし」

「そう? なんか逆に気になるんだけど」
 

松坂は小鼻をうごめかした。


「へへ、いまちょっと計画練ってるんで」

「計画?」

「あー、いや、こっちの話です」
 

そう言うと、彼はふたたび足を組んでサークル仲間のいまの状況などを話しはじめた。
 

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