婚カチュ。
松坂の話はおもしろい。
説明が分かりやすく、オチまできちんと用意されている。言葉の端々から営業マンとして努力していることがうかがえた。
きっとビジネス書をたくさん読んで、顧客や上司やあるいは同僚といい仕事ができるように日々励んでいるに違いない。
始発電車が動き出す1時間前に閉店時間になり、ふたりで公園のベンチに座って時間をつぶした。
後輩のおかげでわたしは悲しい気持ちに襲われることなく朝を迎えることができた。塞いでいた感情も、少しだけ晴れている。
「ごめんね、付き合わせて」
「いえ、俺が勝手に来たわけだし」
そう言うと、ビルの隙間からのぼっていく太陽に向かって伸びをする。
「そろそろ電車動きますか?」
顔だけをこちらに向けて後輩が尋ねる。わたしは腕時計に目を落とした。
「うん、そろそろ。松坂は?」
「俺はそこのネカフェで軽く寝てきます。アルコール残ってるかもなんで、念のため」
「え、それならわたしも」
朝まで付き合わせておいて自分だけ先に帰れるほどわたしの神経は太くない。
立ち上がると、松坂はまぶしそうに目を細めた。