婚カチュ。
彼のニットもデニムも、こぼしたビールの跡はきれいに消えていた。
残らなくて良かったとほっとする。
「じゃあ松坂、運転気をつけて」
「先輩」
「え?」と顔を上げた瞬間、唇に柔らかな何かが触れた。
近すぎて、一瞬何が起きているのかわからなかった。
両手をデニムのポケットに突っ込んだままわたしに唇を重ね、彼はゆっくりと顔を離した。
唖然としているわたしとは対照的に、顔いっぱいに無邪気な笑みを浮かべる。
「おやすみなさい、先輩」
そう言うと、彼は公園を出て、大通りを歩いていく。
「え……」
わたしはその場に立ち尽くした。
朝寝坊の太陽が、細長いからだを白く照らしだしていた。