婚カチュ。
4◇たとえば満身創痍の青年実業家
1 ◇ ◇ ◇
唇に残る余韻に、かすかに胸がうずく。
キスなんて久しぶりで、そのときはただ頭が真っ白になり、あとになってから頬が燃えた。
「……まいった」
あいつ、わたしのことが好きなのかな。
そう考えれば思い当たるふしがいくつかある。
誰にでも懐いていそうな松坂だけど、本社に来たときにわたし以外の女性と話しているところは見たことがない。
だけど腑に落ちないこともある。
わたしと松坂はもう9年も先輩後輩をやっているのだ。そのあいだにそれぞれ付き合った相手がいるけれど、お互いフリーだった期間だって長い。
それなのに、なんでいまさら?
告白されたわけでもないのにこんなふうに考えてしまうのは、あのキスのせいだ。
状況を考えると、アルコールが入って一緒に朝を迎えてなんとなく雰囲気に呑まれてやりました、という理由もあり得そうだった。
本当に、あれはいったいなんだったのだろう。深く考えるべきか。それとも犬に舐められたと思って忘れるべきか。
松坂とレオの顔を交互に思い浮かべていると、
「大丈夫、ですか?」
声をかけられ、はっとした。