婚カチュ。


「え、いいですよ別に。このあいだのもわざわざ洗って返してくれたじゃないですか」
 

固辞するわたしの手を取り、戸田さんは大通りを歩き出した。


「僕が買ってあげたいんだよ」
 

つながれた手に意識が集中する。ごつごつと節くれだった、大人の男性の手だった。
 


わたしはいま、正式に戸田さんとお付き合いをしている。

必然的に他の会員とのお見合いはすべてストップになった。
相談所を介しての交際だから、デートのたびにいろいろとアドバイザーに報告をしなければならず、婚約が成立するまでは会員同士の情交もご法度らしい。
 
あくまで結婚を目的とする相談所であり、恋人を探すのが目的の出会い系ではないということだ。


「これ、君に似合いそうだな」
 

きれいに畳まれた色とりどりのハンカチのなかから戸田さんが選んだのは、意外にもさくら色だった。


「そうですか?」
 

名前のせいだと思うけれど、わたしはむかしから紫を当てはめられることが多い。
特に好きでも嫌いでもないけれど、気が付くと自分でも紫の小物や服を選んでいることが多々あった。


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