婚カチュ。
及第点だ。
広瀬さんの言うとおり、彼は相当な優良物件に違いない。ここで逃したら、きっとこのレベルの男性にはめぐり会えないだろう。
「少し歩きませんか」
彼が恥ずかしそうに微笑む。
「外の風にあたりたいんですが、お付き合いいただけますか」
「はい」
よろこんで、と言いそうになってこらえる。ここでがっついたところを見せてはいけない。もう恋の駆け引きは始まっているのだ。
席を立った彼が落ち着いた足取りでドアに近づいていく。自然と背を向けられる格好になり、わたしの目は広い背中へと吸い寄せられた。
そして一点に集中する。
「……」
「さあ、行きましょう二ノ宮さん」
そう言ってわたしを促す人の好い笑みに、答えることができなかった。