婚カチュ。
5◇たとえば天衣無縫な敏腕営業マン

1  ◇ ◇ ◇


「お母さん、わたしが弁護士と結婚したらどうする?」
 

秋刀魚の塩焼きをほぐしながら何気なく言うと、母親は箸を落とした。ご飯茶碗にあたり、かちゃんと音を立ててテーブルの下に落ちる。
 

弟の蒼は朝早くから研究室に出かけ、父親もすでに出勤していて、女2人で食卓に向かい朝食をとっている最中だった。


「な、なに言ってるの紫衣ちゃん」
 

落とした箸を拾い上げ、母はわたしを責めるように見る。


「そんな夢みたいな話、簡単に口にしないで」

「夢みたいなんだ……」
 

脂ののった秋刀魚を大根おろしと一緒に口に入れる。濃厚な旨味とおろしのさっぱりした味わいが口の中で調和する。


「じゃあ青年実業家は?」
 

わたしの言葉に今度は口に運んでいた白米をぽとりとテーブルに落とした。
彼女は無言でそれを台布巾で拭き取り、憐れむようにわたしを見る。


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