婚カチュ。
「いいのよ紫衣ちゃん、そんなに無理をしなくても。そんな空想上の生き物を探すよりも、身の丈に合った人を見つけなさい」
「空想上……?」
母親の中で、広瀬さんの存在は河童や人魚と同義らしい。
「じゃあ営業マン」
現実的なラインを挙げると、
「……いいんじゃない?」
つまらなそうな顔でひどく投げやりな口調だった。がっかりしたように肩を落とす。
口ではどうでもいいようなことを言っても、結局のところ母は娘の結婚相手に夢を見ている。
お茶を啜りながらわたしは自分の母親を見つめた。50代なかばの顔は年齢よりは若く見えるけれど、笑うと目じりにしわが寄る。
「お母さんは、なんで父さんと結婚したの」
ちいさいころから何度か聞いたことのある質問だった。聞くたびにはぐらかされ、現在まできちんとした答えを聞けずじまいでいる。
空いた茶碗を重ねていた手を止め、母親はわたしに目を向けた。