婚カチュ。


「そうねえ、そろそろ本当のことを言ってもいいかしら」

「本当のこと……?」


物憂げにため息をつく母親に、心が騒ぐ。

彼女はゆっくり口を開いた。


「お母さんはね、お父さんの顔が好きなの」

「……はい?」
 

耳をすり抜けていった言葉を反芻する。


「だって、お父さんって格好いいでしょう? 昔はもうそりゃあ色男だったのよ」


確かにうちの父親は目鼻立ちが整っていて現代的な風貌の男前だと思う。
しかし顔って……。この脱力感はなんだろう。


「頼りにならなかったり、おしゃべりが下手だったり、ダメなところもたくさんあるけど、顔がいいとなんだか許せるのよ」

「え、なぜ? 許しちゃダメじゃない?」

「もちろん、真面目に仕事を頑張って、こうやってお母さんに家庭を持たせてくれてるっていう前提があっての話よ」
 

首をかしげるわたしに、母は微笑んだ。


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